新しいビラ+2010年12月17日のツイート


やっと3枚目のビラがでました。長文ですがアップします。



ハンガーストライキのこと。
───嘱託教職員の3年使い捨て反対。



「怒りは絶望を忘れさせる」(Anger is more useful than despair)と
T850はジョン・コナーにいった(※1)。
そのとおりで、ひとはあまりにも不誠実な嘘やでまかせのまえでは
つい絶望を通り越して元気になってしまう。


はじめまして。
このチラシは、「あしたを夢みたい――日リテチューターの3年使い捨て反対」に続く3枚目になります。
いま精華大学にはわたし(たち)と同じような嘱託教職員が70名くらいいて、
3年という更新制限のもとで働いている。
専任のひとたちと同じようなしごとをしていて、学生や同僚と信頼関係をつくっても、
期限がきたら精華を離れていかないといけないなんて、どこかおかしい。
やめたあとにも新しいひとが雇われて、まったく同じしごとをこなしていくのに。
もし任期が切れる同僚や、ほかにもたくさんの嘱託教職員がここにとどまることができたら、
もっと大学はすてきな場所になるだろう――そんな思いから更新制限廃止を求める活動をはじめてからもう1年。700名以上の署名が集まったけれど、同僚はこの春に雇い止めになり、
つぎはいよいよ3年目をむかえるわたしの順番がまわってきた。

この3年間で、精華を離れていった魅力的な教職員の顔を
何人も思い浮かべることができる。
いなくなっていいひとなんかいなかった。
いまでも多くの学生が、その名前をきけば、かれ/かの女たちを懐かしく思い出すだろう。
その一方で、学生の顔もろくにしらない、学生からもしられていない理事たちは、
更新制限の明確な理由も示さないまま、制度の維持を明言した回答書をさいごに対話すら拒絶している。
そんな理事会に抗議するために昨日12月14日からハンガーストライキをはじめました。
まずは、そこにいたるまで一年の活動報告を。


1月12日に食堂まえに小屋をたてて以来、わたし(たち)は働きながら時間をつくっては、
毎週お昼休みに豚汁、クリームシチュー、春雨スープ、ジンジャーエール
はちみつレモンを配りつつ署名を集めたりアピールをしたりしてきた。
ノルウェーレズビアン・パフォーマンス・グループ「ハングリーハーツ」や
フランスのアーティスト「Fury」による公演・講演・作品展も企画し、
就職に悩める学生を対象に5回の講座を開き、ついでにBBQも秋口に2回開催、
ふたつの雑誌に原稿を書いた(※2)。
それに対して、いちばんさいしょに反応したのは学生だった。
葛藤やぶつかりあいを重ねながらも共感的にはなしをつないだのは、
同じ立場の同僚だった。記事になったものもならなかったものもあるけれど、
新聞社のひとも何回か取材にきた(※3)。
いつもは大暴れしているうちの黒猫は、ビラを書いているときは、気を遣って静かにしていたらしい。

さいごまで、ほとんど反応しなかったのは、
わたし(たち)の数倍の年収をもらって更新制限もなく働いているほとんどの専任教職員だった(※4)。
ビラの文字が小さすぎて目に入らなかったのだろうか。
上か下ばかりみて大学を歩いていたのだろうか。
ものを自由にいう感性もちからも持たないひとたちにいったいどんな教育ができるというのだろうか。
つまり、すっかり磨り減ってしまった希望をいかりに置き換えてこう記さないといけない。
「人間を大切にする」ことを教育の理念に掲げた精華大学において、
まるでもののように3年がすぎたら使い捨てになる教職員がいるという現状に対して、
批判的なアクションを起こすひとは当事者であるわたし(たち)をのぞいていないのだ。
みまわせば、年齢も若くてもっとも立場の弱い非正規労働者だけががんばっている。
孤立はおそれていなかったけれど、まわりにだれもいないということに気づくまでに
ずいぶん時間がかかってしまった。
理念も理想も死に絶えて、ここにはもはや貧困しかない。


そんな知らんぷりにくらべても、この間いちばん不誠実だったのは理事会だった。
昨年12月26日の団体交渉からはじまって1月、5月、7月と全部で5回の交渉を
上々手専務理事とのあいだで持ったのだけれど、
結果からいえば精華のなかの非正規労働者が働きやすい状況をつくっていくことは、
まったく検討もされなかった。
交渉の内容をすべて書くことはできないので、
打ち切られる前のさいごの7月27日の交渉で示された回答書のおおきな嘘についてだけここでは書く。


回答書には、嘱託教職員の更新制限を維持することの理由として、
「嘱託教職員の方々には専任と同等の業務内容や義務を求めるものではなく、
限定された分野での能力の活用を期待しているものです。
それにともなって権利と賃金も異なっています」と書かれている。
つまり、専任とは異なる業務内容を担っているから、取り扱いに差があって当然というのだ。
その発想の問題はともかくとして、これは嘱託として働いているひとならすぐにわかると思うけど、
真っ赤な嘘である。現状は、専任と同じようなしごとをしているのに、権利も賃金もまったく違う(※5)。
だいたい事務を統括している有田総務部長だって
「うちは今、嘱託職員と専任職員の業務のすみ分けはできてない……専任と同等の仕事をしている。
違うのは待遇」といっている。
すみ分けができていない理由は簡単で、
精華は他大学に比べても圧倒的に非正規の率が高い(約7割強・非常勤含む)。
非正規の労働がなければいちにちだってまともに運営されていかないだろう。
それにしてもどうしてそんなだれにでもわかるような嘘をつくのだろうか。

 
あともうひとつどうしてもゆるせないのは、
3年という契約年限では担当した学生の卒論をみることもできないという
わたし(たち)の問題提起に対する次のような回答である。
「熱意をもって学生の教育に当っていただいており大変有難いご意見ではありますが、
現在のチューターの方々にお願いしているのは、本来1年生までの教育です」。
まず、まっさきにいいたいことは、教育をなんだと思っているのか、ということ。
大学での教育の本質はひととひとのつながりにあり、
学生をひとりの人間としてきちんとみていくような教員や職員が
落ち着いて働けることがいちばん大事なのだ。
どれかひとつの授業に学びがあるのではなくて、
何年もの時間をかけて学生は大学という場のなかでものを考えていく。
学生と教職員が顔の見える距離にいることはしぜんと大学を魅力的な空間にしていくだろうし、
「卒論をみることができない」という問題提起は学生に対しての責任がまっとうできないという無念さの表明である。
上々手専務理事は、まずなによりも教育の理想を、その次に恥を知るべきだ。
新学科設置だとか、「精華のミッション」だというまえに、
まずはいちばん身近なところで働いている人間の顔をみるべきだ。
空虚なパッケージだけくるくるかえていったって、
かんじんの教育の理想や大学空間の雰囲気が死んでいくのだから、学生が集まるはずがない。


クリシャン・チャンダルの小説『アンヌ・ダーター』のなかで、
飢えで死んでしまったシタール弾きは
「世界で一人でも貧しい限りすべての人間が貧しいのだ」と貧しさへの無関心を告発する。
ターミネーター』のなかでT850はジョン・コナーにいずれ訪れる破綻を伝える。
すでに死んでしまったシタール弾きも、未来の死者たちにかわってコナーに警告するT850も、
どちらも現在の人間が無関心のうちのとらえきれていない貧困を凝視している。
そこでは死者の口を通してしか「真実」は語られない。
そんなふうに死者になって語るほどではないにしても、
圧倒的な無関心は精華大学だって同じこと。
どこでだれが働いているのもわからないし、なにが起ころうとみんな自分のことでいそがしい。

非正規労働者とはいわばいまに生きる死者かもしれない。
いつだって、すぐ近くにじぶんがいなくなった未来が広がっているのだ。
春に精華からいなくなったひとたちと同じように、わたし(たち)もこの場所を去っていくだろう。
それでも、わたし(たち)に話しかけてくる学生や、去ってしまった教職員のことを覚えている学生がいるかぎり、
希望はここにしかない。かつてあったすばらしいつながりや、
いまかろうじてみえているつながりを手がかりにして、
まずは働くひとが、理想を、ひととひととのかかわりを取り戻す必要がある。

ここまで読んでくれてありがとう。
ハンガーストライキは継続中。
差し入れはまわりのひとたちが食べます。また次のチラシで。


(注)
1.今回は映画『ターミネーター3』(2003)から。
2. 「大学非正規労働者の『あしたのために――京都精華大学嘱託助手三年雇い止め反対活動の報告にかえて』」『インパクション173号』。「わたしの前にある鍋と自由と燃える火――京都精華大学における雇い止め反対活動と大学非正規労働者の『未来』」『寄せ場23号』。
3.いまでも最初の記事はいちおうWeb上でみることができる。「京都精華 豚汁」で検索すると比較的簡単にみつかる。
4.署名してくれたひとも数名いる。ありがとう。
5.そもそもわたしの働いている部門は特任ふたりと嘱託10人だけで運営されている。その部門自体が非正規だけで成り立っているのに、業務のすみ分けもなにもあるもんか。



理事会への抗議先は:075-721-9019(FAX) 075-702-5131(TEL)



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